タッチのわずかな違いの原因は|ペダル鍵盤修理【エレクトーン ELS-02C】

電音技術者YKです。

三木楽器ピアノアトリエには、ヤマハ電気音響製品認定技術者(略して電音技術者)も在籍しています。

電音技術者?なんだそれは?と思う方もいらっしゃると思いますので、簡単にご紹介いたします。

電音技術者って、どういう人?

ヤマハでは電子ピアノ、エレクトーン、ハイブリッドピアノなどの電子楽器も多く取り扱っていますが、それらの修理に携わる技術者が“ヤマハ電気音響製品認定技術者”です。

その資格や技術を得るためにはヤマハで一定期間の研修を受け、資格更新のための研修が毎年複数回あります。常に技術と知識の研鑽を行っている、いわばヤマハ製電子楽器のスペシャリト。
全国では約350人ほどの技術者がいるそうです。

※ヤマハWeb音遊人の記事“楽器修理のプロたちの最後の拠り所「技術サポートセンター」”より

三木楽器ピアノアトリエでは現在、ピアノ調律師が電音技術者を兼任し、2名体制で修理対応にあたっています。

なんて、前置きが長くなってしまいましたが、電音修理についての最初のブログでは、エレクトーンのペダル鍵盤修理をご紹介します。

エレクトーンSTAGEAのペダル鍵盤修理

ヤマハ エレクトーン ELS-02C

1959年に誕生し、60年以上の歴史をもつエレクトーンの、現行モデル上級機種です。

リアルな音!繊細な表現力!!シュッとした外観!!!

そんな三拍子そろった素敵な楽器ですが、やはり使えば使うほどに傷んでしまう部分もあります。

その中で、今回ご紹介する内容は“ペダル鍵盤で特定の音が鳴りにくい”という症状についての修理です。

ペダル鍵盤はエレクトーンの特徴の一つ、足で押さえる(弾く)鍵盤です。

エレクトーンは電子オルガンの一種であり、その電子オルガンの草分け的存在であるアメリカのハモンドオルガンは、シアターオルガン(パイプオルガンの一種)を家庭でも楽しみたいという思いで作られた、といわれています。

※ヤマハ 楽器解体全書…エレクトーン誕生ストーリーより

電子オルガンであるエレクトーンにも、その影響からかパイプオルガンのようなペダル鍵盤が付けられています。

今回は、そのペダル鍵盤の音が鳴りにくい、ということでした。

症状のご指摘を頂いたのは、写真で押さえている“レ”の音ですが、他の音と比べてみると確か鳴りにくい。正確に言うと、鍵盤を押さえて音が鳴る位置が、他の鍵盤より遅い(他の鍵盤より深く押さえないと鳴らない)。

音が鳴らない、鳴りにくいという症状は、ペダル鍵盤以外でもよくある症状です。

電子ピアノや電子オルガンで音が鳴る仕組みは、鍵盤下に収められた接点ゴムが、鍵盤によって押し込まれて、基板側の接点に接触することで電気が流れ、音源が収められた基板からスピーカーやヘッドフォンへと音が出力される、というものが多いです。

(光や電波を使用して発音している電子楽器もあります)

今回の症状の原因として疑われるものは、接点ゴムまたは基板の劣化、接点の汚れなど。

確認のために、ペダル鍵盤を分解します。

なかなか見られないペダル鍵盤の中身

ELSシリーズでは、ペダル鍵盤は一つのユニットとして本体から取り外しが出来、鍵盤自体はフレームに裏側からネジ止めしてあります。ネジを外して分解して行きます。

下の写真が、接点ゴムです。

二本ある黒い部分が基板側の接点へ接触することで音が鳴りますが、接点ゴムに異常がないか、外してチェックしてみます。ひどい場合には見るからに破れていたりしますが、今回はそんな様子はなさそうです。

手で押さえたり曲げたりしながらチェックしてみると、おかしな部分がありました。

僅かに裂けています。

ほんの僅かな裂け目ではありますが、この裂け目が押し込まれた際の形状やたわみ方に影響を与えます。今回の症状であればこの裂け目が原因となり、押し込まれた際に基板への密着度が足らなかったり、接触のタイミングにズレが発生するなどの結果(症状)へと結びつきます。

その他にも、接点ゴムが完全に破れてしまい全く音が鳴らない(接点ゴムが接点に接触しない)ことがあったり、基板側の接点が腐食してしまい音が鳴らないなど、“音が鳴らない・鳴りにくい”という症状だけでも、原因はいくつか考えられます。

念のために他の接点ゴムも全てチェックし、劣化しているものは新しい接点ゴムに交換、基板接点もクリーニングをして、元に戻して行きます。

修理は完了!しても話が終わらない…のも、よくある話

最後にペダル鍵盤の発音チェック、その他部分も正常に動作するか確認を行い、修理は完了。

無事に症状も改善され、この瞬間には技術者としても喜びを感じます。

ここで、動作チェックの意味も含めてサラっとカッコよく演奏!…出来たらよかったのですが、あいにくエレクトーンをそんな風に素敵に弾く力もなく…。

ただ、世の中には素晴らしいエレクトーンプレイヤーの方が、沢山いらっしゃいます。

そこで、先日「楽器店大賞2025」で「プレイヤー部門 〜楽器店員が、この先の活躍を応援したい若手アーティスト/グループ 大賞」を受賞された、素敵なプレイヤーさん「井上暖之さん」のアーカイブ動画を引用しましてご紹介いたします。

※楽器店大賞2025 表彰式 アーカイブ動画より

いやあ、カッコいいですよね。こんな素敵な演奏を耳にすると、自分でも弾いてみたい!と感じずにはいられません。私も家にはエレクトーンがあるので練習すれば良いのですが、練習…しないと上手くはならないですもんね。

人には『練習はやっぱり大切ですよ~!』なんて言っておきながら、自分は練習大嫌いというのは、ここだけの話です。

エレクトーンはリズムや打楽器の音も出すことができるので、バンドやオーケストラのような演奏も一人で可能。鍵盤を押さえた後でも音に変化をつけられたり、音の組み合わせも自分で設定できたりと、ピアノとはまた違う表現力も持っています。

流行りのあの歌も!カッコいいあのジャズバンドも!

ゲーム音楽だったり、クラシックの名曲であったり、演奏できるジャンルはとても幅広いです。

ね?ちょっと弾いてみたくなりませんか?

私はとても弾いてみたいです!

練習は…?検討します。

なんて、余談まで長くなってしまいましたね。

今回の修理紹介は、ここまでです。

三木楽器ピアノアトリエではエレクトーンだけでなくヤマハ製電子ピアノ(Clavinova、ARIUSなど)、ハイブリッドピアノ(Avantgrand)などの修理も行っております。

電源が入らない、音が鳴らない、鍵盤が戻らないなど、なにか不具合や違和感を感じていらっしゃる方は、まずはお気軽に三木楽器ピアノアトリエまでお問い合わせください。ご相談お待ちしています。