こんにちは。三木楽器ピアノアトリエ技術担当HHです。
先日、ホールに設置されているヤマハコンサートグランドピアノCFⅢSAの保守点検作業を実施いたしました。
保守点検とは?
コンサートや発表会等の使用頻度の高いホールのピアノは、ピアノ利用ごとに調律はされますが、調律では2時間程しか時間が取れないので、別途1~2日間をかけて、ピアノの内部(アクションやハンマーなど)を適正な状態に戻す作業のことを云います。
ピアノは木材やフェルトなどの自然素材を多く使用しているため、温度や湿度の変化、長年の使用によって少しずつ状態が変化していきます。
そのため、定期的な調律だけでなく、内部機構の調整や点検を行うことが大切です。
まずは各部のネジ締めから
保守点検の最初に行うのは、ピアノ全体のネジの増し締めです。
大屋根と呼ばれるピアノの蓋を支える蝶番部分をはじめ、譜面台や金具類、アクションなどの各所に取り付けられているネジを一本ずつ確認していきます。
また、ピアノの脚を固定しているボルトや、ピアノ下部にあるペダルレバーを支えるネジなども点検し、緩みがないか確認します。
長年の振動や温湿度変化によってネジは少しずつ緩むため、こうした基本的な点検作業もピアノの安定した性能維持には欠かせません。

ピアノ内部の清掃と鍵盤まわりのメンテナンス
続いて内部清掃を行います。
まずアクションを本体から取り出し、その後、鍵盤筬(けんばんおさ)から88鍵すべての鍵盤を取り外します。
鍵盤筬の埃は掃除機できれいに掃除します。
鍵盤を外すと見えてくるバランスピンとフロントピンには、使用による汚れなどが付着しています。
これらをベンジンを含ませた布で一本ずつ丁寧に磨き上げていきます。
88鍵分すべてを手作業で行うため非常に地道な作業ですが、鍵盤の動きを滑らかにし、タッチの均一化につながる重要な工程です。
清掃後は鍵盤を元通り組み込み、スムーズに動作するかを確認しながら必要に応じて調整を行います。
響板上の掃除にはブロアーを使った埃を吹き飛ばします。


整調
清掃後はアクションと鍵盤の整調作業に入ります。
主な作業内容は以下の通りです。
- 鍵盤調整
- 弦合わせ(走り・ねじれ・間隔)
- 弦当たり(3本ないし2本の弦が同時に当たるよう調整)
- サポート合わせ調整
- バックチェック合わせ調整
- べディングスクリュー調整
- 白鍵・黒鍵高さ調整
- ハンマー接近調整
- 鍵盤深さ(沈み量)調整(白鍵)(ヤマハは基準寸度10㎜に調整)
- ハンマーならし(弦と静止したハンマーとの距離を46~48㎜前後に調整)
- 鍵盤深さ(沈み量)調整(黒鍵)(白鍵のアフタータッチと揃えて調整)
- ハンマーストップ調整(各セクション、基準寸度15mに調整)
- レペティションスプリング調整
- ジャック位置(前後・高さ)調整
- ハンマーならし(アフタータッチを見ながら再度調整)
- ハンマードロップ調整
まず、ハンマーが弦の中心を正確に打つよう位置を合わせます(ハンマーの間隔や傾きも合わせて修正します)。
次に、サポート位置をハンマーに合わせて調整し、サポート・ハンマー・鍵盤を一直線に揃えることで、鍵盤からの力を無駄なくハンマーへ伝えられるようにします。
これが決まったら、打弦後にハンマーをキャッチするバックチェックの調整、べディングスクリューによる棚板への圧の調整を行い、鍵盤の高さと深さを決めていきます。
鍵盤の深さが定まったら、打弦距離調整(ハンマーならし)でハンマーの運動量をおおよそ決定します。その後、ハンマー接近量とドロップの調整を行い、タッチを適切な状態に揃えます。最後にスプリング調整とジャック調整を加えることで、タッチをより精密に整えていきます。
これらの調整により、鍵盤の重さや動きを均一化し、演奏性や連打性能を向上させます。
ダンパー・ペダル調整
続いてダンパーやペダルの調整を行います。
- ダンパーかかり(始動)調整
- ダンパー総あげ調整
- ダンパーストップレール調整
- ソステヌートロッド調整
- 各ペダル調整(踏み込み量・遊び)
ダンパーの動作やペダルのタイミングは演奏表現に直結するため、細かな動きまで確認しながら調整を行います。
調律
調律を442Hzで行い、音程を正確な状態へ整えます。
また、アクションやハンマー、弦、ダンパーなど各部の状態を再度確認し、異常がないかを点検しながら作業しました。
整音
調律作業後は整音を実施します。
整音の位置づけ
整調(タッチ・機構調整)→調律(音律・ピッチを整える)→整音(音色の調整)の順で行うのが基本です。
整調でのハンマーの弦当たり・ストロークが正しく揃っていないと、整音でどれだけ針を刺しても音色が均一になりません。
整音は最終工程であり、かつ演奏者の要求(明るく煌びやかに/丸く柔らかく等)に最も直結する工程でもあります。
診断(音色チェック)
まず針を刺す前に、pp〜ffの各強度で全音域を弾き、次の点を確認します。
- 音の輪郭:打弦したときの音の硬さ、粒立ち
- 音域間のムラ:低音〜中音〜高音の継ぎ目で音色が急変していないか
- 音色のバランス:基音に対して高次倍音が出すぎていないか(キンキンする)、少なすぎないか(こもる)
- ffでの割れ:強打時に音が潰れる(=硬すぎる)か、逆に芯がなくなる(=柔らかすぎる)か
新品ハンマーは針の入っていない比較的硬い状態で出荷されるため、まずファイリングと針刺しで「柔らかくする」方向の作業が中心になります。
逆に今回のピアノのようにある程度使用感のあるハンマーは弦溝で圧縮が進み表面が硬化しているため、溝の状態次第でファイリングによる整形も必要な場合があります。
なお、今回は前回のメンテナンス時にファイリングを実施しており、ハンマーの状態も良好であったため、ファイリングは行いませんでした。
ファイリングとは?
弦溝が深くなった、あるいは打弦点がずれたハンマーは、ペーパーでファイリングを行って整形し、本来の形状に復元します。これは、適切な整音を行うための前提となる重要な工程です。ただし、ファイリングを過度に行うとハンマー自体が小さくなり、寿命を縮める原因となるため、削る量は必要最小限に留めます。
針刺し(ニードリング)とは?
ピッカーという専用工具を用いて、ハンマーに針を入れ音色を整えていきます。打弦点部分を避け、肩口に角度をつけて刺すことで、打弦点の硬さは維持したまま周辺の圧縮を緩め、アタック時の硬い音だけを和らげます。針の深さや角度によって効果は異なり、浅く刺せば表面の硬い層に作用して高次倍音を抑え、深く刺せば中間層まで作用して基音のエネルギーを含む音の芯にも影響します。また、針を入れる位置によっても音色は変化するため、高い経験と正確な判断が求められます。
仕上げ確認
最後に、pp・mp・ffの三段階で全音域を再度弾き、隣接音との音色連続性、和音でのハーモニー感、ペダルを踏んだ際の響きの一体感を最終チェックします。整音は全てのバランスを「揃える」ことがゴールであり、単に柔らかくすることではない点が重要です。
定期的な保守点検の重要性
ピアノは調律だけでなく、内部機構の調整や整音を定期的に行うことで、本来の性能を発揮することができます。
今回ご紹介した保守点検は、ホールのコンサートグランドに限らず、ご家庭やレッスン室のピアノにも有効です。
特に使用頻度の高いピアノは、定期的に保守点検を行うことで状態が大きく改善し、弾き心地や音色が見違えるように変わります。タッチや音色にご不満を感じていらっしゃる方は、ぜひ一度ご検討ください。
三木楽器では、調律だけでなく修理・保守点検を通じて、お客様の大切なピアノを最良の状態で維持できるようサポートしております。
ピアノに関するご相談は、お気軽にお問い合わせください。

