サイレントピアノ™はアップグレードできる?| ヤマハ VSH3シリーズ【ピアノ消音ユニット】

電音技術者YKです。

今回は修理のお話ではなく、ヤマハサイレントピアノ™のアップグレードと、その作業についてのご紹介です。

ヤマハサイレントピアノにはアップグレードが可能な機種があり、専用のアップグレードユニットが販売されています。

そして、アップグレード作業については私たち調律師兼電音技術者も担当しています。

アップグレードユニットとは、いったいどんなものなのか?

今回は、その仕組みや実際の作業について、お話を進めてまいります。

その前に、サイレントピアノ™とは?


それではアップグレードユニットのお話…の前に、まずは『ヤマハサイレントピアノ™』についてお話しします。

サイレントピアノがあってのアップグレードユニットですもんね。

簡単にご説明すると…

アコースティックピアノに、次のような使い方がプラスされています。

①アコースティックピアノの音を消すことができる(ハンマーが弦を叩かない=弦から音が出ない)

②消音状態でも、アコースティックピアノならではの鍵盤のタッチを活かして演奏できる

③電子音源によるピアノの音を、ヘッドホンを通じて楽しむことができる

このように、夜でも周囲への音漏れなどを気にせずに弾ける!

とても便利なピアノなんです。

(本当に簡単な説明ですが…苦笑)

ヤマハ サイレントピアノ™は1993年に発売され、モデルチェンジを重ねて進化してきました。

発売当初、サイレント機能使用時の音色はピアノだけでしたが、現在ではハープシコードやオルガンの音色で演奏を楽しむことも可能です。

そんな便利なサイレントピアノも、初代機種の発売から30年以上が経過しました。

長年愛用されてきたモデルの中には、電子部品を中心に補修用パーツの入手が難しくなり、サイレント機能の修理が困難なケースも見られるようになってきました。

そこで2023年春、ヤマハから登場したのが「サイレントピアノ™ アップグレードユニット VSH3シリーズ」です。

アップグレードユニット VSH3シリーズは、どんなもの?


「サイレントピアノをアップグレードする」とは、いったいどういうことなのでしょうか?

気になりますよね。

ひと言でいうと、

「長年使い続けてきた大切なピアノはそのままに、現在お使いのヤマハサイレントピアノ™の消音システムを、最新のSH3シリーズ相当へアップグレードできる!」

ということです。

YK
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これまでのサイレントピアノ™を、これからも長くお使いいただくための新しい選択肢ですね!

では、具体的に何が変わるのでしょうか?

内蔵音源が新しくなる
→よりリアルで豊かなピアノの響きを楽しめます。

2台のコンサートグランドピアノの音を楽しめる
→ヤマハの「CFX」と、ベーゼンドルファーの「インペリアル」をサイレント音源に搭載。

センサーシステムが新しくなる
→電磁誘導式センサーが鍵盤の打鍵・離鍵の動きをよりきめ細かく検知し、演奏表現を正確に音へ反映します。

音色表現のシミュレーション技術も最新式に
→弾き方による音色の変化をより自然に再現し、豊かな表現が可能になります。

演奏を録音できる
→本体には鍵盤の演奏情報をMIDIデータとして録音し、内蔵音源で再生できます。また、USBメモリには電子音源による演奏音をWAV形式で録音することも可能です。

※アコースティックピアノの弦が鳴る生音をマイクで録音する機能ではありません。

専用アプリから操作できる
→音量調節や音色変更などを、スマートフォンやタブレットから直感的に操作できます。      

などなど、長年使ってきた大切なピアノはそのままに、サイレント機能を最新世代へ。

お持ちのサイレントピアノも、アップグレードしてみたくなりませんか?

※VSH3シリーズは、機種やピアノの状態によって取り付けできない場合がございます。

 対応機種については、下記リンク先をご確認ください。

サイレントピアノ™アップグレードユニット VSH3シリーズ 取付可能品番リスト

アップグレード作業を少しだけご紹介


実際のアップグレード作業を交えて、何が変わるのかについて少しだけご紹介します。

まずは、今回のアップグレードで大きく変化する部分のひとつ、キーセンサーです。

交換前のパーツはこんな感じです。

こちらは、『キーセンサー(LED光)』と『キーシャッター(グレースケール)』というシステムです。

仕組みを簡単にご説明すると、

①キーセンサー側からLED光が照射されています。

②鍵盤を押さえると、鍵盤の裏側に取り付けられたキーシャッターの位置も上下し、LED光の透過量が変化します。

③キーシャッターによる透過光量の変化から、鍵盤の位置や動く速さを連続的に読み取ります。

このように鍵盤の動きを検知し、その情報をもとに電子音源から音を鳴らすという仕組みです。

グレースケールシャッターは樹脂製で色に濃淡があり、光の透過量を細かく変化させることができます。

現在の電磁誘導式キーセンサーとなる一世代前のシステムですが、さらに以前の機種では鍵盤側のキーシャッターは金属製のものが使用されていました。

サイレントピアノの30年以上にわたる歴史は、音源の進化だけではなく、より繊細な演奏表現を実現するために、センサーシステムが改良されてきた歴史でもありました。

そして、いよいよ電磁誘導式センサーの登場です。

既存のキーセンサーとグレースケールシャッターを取り外し、新しいセンサー用パーツを取り付けていきます。

上記写真が、新しいキーセンサーと、キーシャッターの代わりとなる基板です。

説明のために、キーセンサー側を基板(A)・鍵盤側を基板(B)とします。

鍵盤を押さえることで、基板(A)と基板(B)の間の距離が変化します。

このとき電磁誘導により基板(A)側に電圧変化が発生します。

その電圧変化を読み取ることで鍵盤の位置を検出する、という仕組みです。

従来方式と比べて、鍵盤の打鍵・離鍵の動きをよりきめ細かく検知できるようになり、例えばスタッカート演奏時などの鍵盤の動きもさらに正確に読み取ることが可能になりました。

これにより、消音時の表現の幅や演奏性が向上しています。

なお、実際の取り付け作業では、既存のセンサーシステムを取り外して新しい部品に交換するだけではなく、各部品の位置関係の調整や、取り付け後の動作確認なども必要となります。

鍵盤の細かな動きを検知するシステムだけに、正しく取り付けられていることが重要なんですね。

また、スイッチボックスも新しいものへと変わります。

旧機種のスイッチボックス
SH3/TA3/VSH3など 最新機種のスイッチボックス

スイッチボックスも、機種や世代によって少しずつ違いがあります。

旧機種のスイッチボックスは、電源スイッチ・音量ツマミ・ヘッドホンジャック・リバーブツマミだけという、とてもシンプルなものでした。

VSH3シリーズではスイッチボックスが大型になり、ランプやディスプレイによって視認性が大幅に向上しています。

また、内蔵メモリへの演奏データの録音や、USBメモリへの電子音源による演奏音の録音も可能となり、お手持ちのスマートフォンやタブレットで、ヤマハのアプリ『Smart Pianist(スマートピアニスト)』をお使いいただくことで、楽しみ方の幅もさらに広がります。

Smart Pianist(スマートピアニスト)

このように、サイレントピアノはさまざまな面で進化し、音楽の楽しみ方の幅がどんどん広がっています。

サイレントピアノが故障してしまったら…


サイレントピアノの登場から30年以上。

長年お使いいただく中で、電気部品の故障が発生することも、もちろんあります。

その場合には、他のヤマハ電子楽器と同じように部品交換などで修理対応を行います。
しかし、修理内容によっては、相応の費用が必要となることもあります。

また、部品の供給が終了してしまい、「修理を承ることができません…」という、心苦しいご案内となってしまう場合もあります。

そのような際には、サイレントピアノのアップグレードも、一つの選択肢としてご検討いただければと思います。

使用年数が長くなるほど、さまざまな箇所で故障への懸念が高まってきます。

極端なお話をしますと、今日故障している箇所を修理したのち、翌日に別の箇所が故障することも、可能性としてはゼロとは言い切れません。

また、複数箇所で故障が発生していることもあります。

修理箇所が複数であったり、短期間で複数回の故障が発生してしまったりすると、お客様のご負担も大きくなってしまうことが予想されます。

一方で、VSH3シリーズも決して安価なものではありません。

しかし、既存の電子システムを新しいものへと交換することで、従来の電子部品の経年劣化に伴う故障への不安を軽減できること、そして最新世代の消音機能へとアップグレードできることは、大きなメリットだと思います。

この辺りの悩ましさは、ご家庭でお使いになられている電化製品、洗濯機、エアコンなどなど…と似たようなところかもしれませんね。

実際に、我が家でもそんなことがありました。

7~8年使用している洗濯機の調子が、なにやらおかしいぞ…?

修理見積りをお願いしたところ、費用は3万円くらいらしい…。

3万円で修理が可能。

でも、他の部分も今後故障してもおかしくないし、それならいっそのこと新しい洗濯機に買い替えようか…

というような、家電製品あるある的な悩みですね。苦笑

もちろん、サイレントピアノの場合も、修理できる間は修理を重ねながらお使いいただき、いよいよ部品供給が困難となってきた際に、VSH3へのアップグレードをご検討いただくという選択肢もあります。

ですので、修理をするのか、アップグレードするのか、はたまた別の選択肢を考えるのか?

そうした今後の選択を検討するためにも、まずは修理に必要な費用や、今後の修理対応の見通しをご確認いただくことが、第一歩だと考えます。

お使いの楽器で、「あれ、なんだかおかしいぞ?」と感じることがございましたら、三木楽器ピアノアトリエまでお気軽にご相談ください。

次回の技術者YKブログは


どう考えてもヤマハ商品のオススメブログでしかなかった今回のお話も、終わりが近づいてまいりました。

こうして過去の作業や経験を振り返り、それらを文章にすることは、自分自身にとっても改めて勉強する機会になっているなあと感じます。

日々の仕事では、自分で作業をして完了する。それだけなら、ほとんど言葉はいりません。

もちろん、お客様に作業内容や故障の原因などをご説明することもありますが、声に出した言葉のすべてが形に残るわけではありません。

相手や自分の記憶の中に残るものもあるとは思いますが、それも時間とともに薄れ、いつか遠い記憶の一つとなっていきます。

しかし、こうして文章にすると、話は少し違ってきます。

一度世に出した文章は、形として残り、いつ、誰の目に触れるかも分かりません。

だからこそ、そこに間違った情報を残すことがないよう、自分の知識や認識が正しいのか、言葉や表現が適切なのか、改めて調べたり、検証したりを繰り返しています。

情けないことに、昔の記憶が薄れかけていたり、いつの間にか認識にズレが生まれていたりすることも、ゼロではありません…苦笑。

そうして確認を重ねる中で、新たに知ることや、改めて理解が深まることもあります。

楽器のことや技術者の仕事、故障の原因や改善策について、皆様に少しでも理解を深めていただき、より良い選択につなげていただく。

そんな想いで書いているブログですが、いつの間にか、自分自身の知識を整理し、これまでの経験を記録しておく場所にもなっているような気がします。

これからも、日々の仕事で得た経験や知識を、できるだけ分かりやすく、そして正確にお伝えしていきたいと思います。

さて、肝心の次回のブログですが、

ピアノ修理?それともエレクトーン?

電子ピアノかもしれないし、もしかすると修理ブログではないかも?

ようするに、まだ何も決まっていません…苦笑

次回も皆様のお悩みや疑問を解消するきっかけとなるような、そんなお話ができればと思います。

ということで、次回もお楽しみに!

今回も最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。